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台風の直撃はなかったが、曇り空に蒸し暑い神戸である。
財布がないのに気付いたのは、生田神社の駐車場に入った時だった。
散々「厄払い」はしないで来たが、自分の厄というよりは「10周年パーティーの成功」のためにとうとう行ってみることにした。数え年で42歳、本厄である。これも切っ掛けだと言い聞かせエンジンを切り、いつものようにトランクを開ける。さて……バッグの定位置にあるはずの財布がない。
「やっ、厄やがな！」
ナンでも、悪いことがあれば厄年のせいにするのもどうかと思うが、冷静になり記憶を辿ってみる。店の帰り、最後に立ち寄ったコンビニで……その時はまだあった。そして一緒に袋に放り込んだはず。そのまま持ち帰ったわけだから、家のどこかにある……そうであって欲しい。
不幸中の幸い（か？）にも、店の売り上げは別にしていたので、売上げに手を付ける。「厄払い、厄払い」と気を取り直し、正門の受付へ。「○○円からの『お気持ち』となります」そんなことを言われて○○円で済ませるヤツなんているのだろうか。それどころじゃないが、少し多めでお願いし、暫し待たされる。
巫女さん？に案内されて本殿へ入る。と言っても外から丸見えだから、人の少ない夕方で良かったと安心する。「早いとこ済ませてくれ」と追っ手に撃たれた右腕の銃弾を路地裏の古ぼけた爺さんのやっている闇医者に麻酔なしで取りだしてもらうように言いたかったが、案内されたど真ん中の椅子（紫の布が張ってある、神前式の時にあるようなヤツ）にお尻はみ出しながら座らされ、「こちらでお待ちください」と一人にされる。
台風は来なかったが、このどんよりした気候には木々の蝉の声もなく、僕の正面にはおそらく神がいるはずの本殿の扉がホンデ〜ンと構えていた。少しするとまたその女性が「少々時間が掛かっておりますので、もう少しお待ちください」と言う。「早いとこ済ませてくれ」と、この歳になってから予防注射を打ちに行った時に言うみたいにしたかったが、罰当たりな行為はこの期に及んでできはしない。僕はジッと、正面を見据えるように少々厳かな気分になっていた。
嫌な予感が的中する。もう参拝は終わる時間の17時前、背後に人の声がする。「チャリ〜ンッ」賽銭箱に投げ入れられた小銭、そしてお決まりの「ガラン、ガラン、ガラン」と綱引きのソレよりデカイ紐に付けられた、猫の首のソレよりデカイ鈴が鳴る。一人、また一人とナニやら僕の真後ろでブツブツと言いながら、何人もがお参りをする。
ちなみに僕の服装は、ボディテックプロ（アスリート用フィットウェア）に、リンドバーグのパンツ。ソイツが賽銭箱と正面本殿扉との間に背中を向けて座ってる。おおよそ霊験あらたかではない風貌に、「あの人、誰？ ナニしてんのん？」そんな声がする中、次から次に来る参拝者を背中で迎えていた。
あまりに人が来るので
「ワタシが、神なのじゃぁ〜」
と立ち上がって振り返ろうと思ったら、祈祷師がやってきた。アンタ達のくれた背中への想いは、一緒に祓ってもらったから。
「お金持ちになりますように」という願いは、聞く耳を持たん。
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