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■ 変態小説家
志賀による、「志賀」を舞台にした空想連載小説。
中毒性日記 2002
志賀のひとりごと、日記に綴ってみました。
志賀自賛
志賀の、「志賀」にかけた想いのあれこれ。
年中ムキゥーッ
志賀、昼の顔。
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加納町人間交差点〜地図にない店の物語
Part II【プレイボーイ編】
第二話「告白」ホテルにて〜前編〜
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僕は雨が一頻り降る日曜、車を東に走らせていた。大阪に車で行くのはいつ以来だろう。この車にとって高速で走り続けることは、とても良いことである。エンジンもさぞかし喜ぶことだろうと、三宮から飛び乗るも渋滞に巻き込まれる。彼女のような僕の愛車は、少し悲しそうに鳴き声を上げる。

大阪に着いたのは、待ち合わせをとうに過ぎた18時。JRの車両からしかお目にかかったことがない、最近出来た大型家電販社の大きなビルの近くに車を停める。高架下で雨を避けながら、彼女は待っていた。記憶のそれよりも高く見えた彼女の背格好、スラッと伸びた足、その美しい姿に女性を待たせる罪を尚更深く感じさせられた。自然とエスコートはいつもより気持ちが入っていた。

実は僕と彼女はまだ3度しか会っていない。初めて会ったときに受けた印象は「綺麗な人」だった。しかし、次にあったときには「可愛い人」に変わり、今助手席に座る彼女には「性」を感ずる人にまでなっていた。これから過ごす時間に淡い想いを馳せながら、コンパクトなハンドルを握り、ショートストロークのボルグ・ワーナーを一速に入れた。恋とはこういうものだ、と今なら言える。

彼女からよくメールが届くようになったのは、ここ1ヶ月くらいのことだ。その内容は「消えて無くなりたい」とか「悩みすぎて苦しい…」そして「とてつもなくハードな話、聞いてくれる?しかも時間がないの」と来たものだから、僕はその相談を聞くことにカコツケテ彼女と会う約束をした。神戸の僕はゆっくりしたいから大阪に泊まると決めたこと、たまにはリフレッシュも必要だということ、そして「変な意味じゃなくて」君にもリフレッシュは必要で、ツインの部屋を取るから……と提案し彼女は同意してくれたのだ。性を感じるのも無理はない。

ホテルの近くで食事をする。再会を祝し、乾杯をする。しかし、飲めるはずの彼女が酒を遠慮する。料理を食べるその手も、程なく止まった。「で、話って何?」僕が聞くと彼女は「後で話す」と言う。「引いてしまうと思うから……」彼女は寂しそうに眼下の夜景を見ながら呟く。自慢じゃないが、大概の話には慣れている。それはバーに立つ者としてもそうだし、僕ほど色々な人の「天国と地獄」を聞かされてきた人間はそうはいまい、と思っている。「あなたの話をして」彼女はそう言って、それっきり話すのを止めた。

その後、飲み足りないウイスキーを飲みにバーに行くが、彼女の話は一向に聞き出せない。聞けば、崩れ去って行く「何か」が顔を出すことは分かっていた。僕にとっては、今のこの時間の方が楽しいに違いないと既に感じていたわけだから、そんなことはもうどうでもよくなっていた。どこからどう見ても恋人同士の二人に見えたであろう、僕と彼女の不思議な時が過ぎてゆく。後に待っているものは、確実に「期待の成就」というカタチに変わりつつあった。

部屋は、そのフロアの一番奥にある。東京のフランクロイドライト・デザインに比べればモダンに見えるが、所々に彼のテイストが木目や照明に現れている。その廊下はよりいっそう長く、自分の女性経験の豊富さにして、今までにない遠き道のりに感じられた。そして部屋の中へ。もうそこには僕と彼女だけであり、他には何の障害もない。ただ一つ「難攻不落」の、彼女を除いては……。



第二話「告白」ホテルにて〜前編〜   つづく


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